徒然

読んだ本の話とか、考えたこととか、自省と希望とか、生きるために吐き出したいこととか。

男尊女卑モラハラ男に対して一緒に怒ってくれる理想の上司なんていないから、私はお姫さまになってしまった

皆様、ご機嫌麗しゅう。

本日わたくしは、苦肉の策として姫になることにいたしました。

 

会社で購入しているある物品があるのだが、それを発注する先の男性職員に酷く失礼な物言いをされたことがある。

 

恐らく歴史のある会社、もしくは男性社会、その両方で働いている女性の皆さんであればわかっていただけると思うのだけれど、この世の中には残念ながら、女の子というだけで小馬鹿にしたような態度を取ってくる、なんとも失礼な殿方がいるものだ。

男尊女卑やモラハラと言われるようなそれらを絶対に許してはならないと思う。

田舎で歴史のある私の職場では誰一人として(女の子の同期ですら)一緒に怒ってはくれなかったし、理解もしてもらえなかったけれど。

 

若い女の子だから。それだけの理由でまともに取り合ってもらえなかったとき、私たちは社会に除け者にされて、敗北したような気持になる。

本当はそんな人ばかりではない。そんなことは分かっていても、胸に生まれた積乱雲はぐるぐると渦巻いて大きくなり、やがて私たちを完全に飲み込んでしまう。

そしたらもうその日は美味しいご飯の魔法も、かわいいメイクの魔法も使えなくなってしまう。なんだか景色は灰色で、靄がかかったみたいになってしまうから、本当に、つらい。

 

ところで、その失礼な男性職員は毎月、月初めになると納品のためにやってくる。

悲しいことに、その物品を受け取るのは私の担当なので、どうしても、どんなに嫌でも、顔を合わせなければならない。

 

それで、ここ数か月、ずっと月初めが憂鬱だった。

そのうちに、憂鬱であることにも腹が立ってきた。どうして私がこんなに嫌な気持ちにならなければならないのか。この状況を打開できる策はないか?

 

相談した男性上司に言われた。

 

「へえ、そうなんだ、よくある話じゃない?」

 

その一言にまともに傷ついた後、気づいた。他人事であれば全く心は動かないのだと。

彼を同じ日本国に生を受けた、近くの人間だと思うから腹が立ってしまうのだと。

他人事にしてしまえば、大して腹は立たないのではないかということに。

 

ということで、私は苦肉の策として、一国のお姫さまになることにした。

なぜお姫さまなのか、それは、もう王族にまでなれば一般市民のことなど全然他人事なんじゃない?と思ったからだ。あと単純に憧れている。大体の女の子はディズニープリンセスに一度は憧れたことがあるんじゃないかと思うのだけれど、私はもう、年中憧れている。大きなふかふかの天蓋付きのベッドで寝てみたいと毎晩思うもの。

 

そんなわけで今日の朝、自室のアパートを出た先に広がっていたのは、職場まで続く綺麗に洗われたレッドカーペットと、愛おしい私の国の朝の風景だった。

 

ああそうだ。私は今日、「お姫様」なのだった。

 

小鳥たちは囀り、すべての動植物と国民から私は愛されており、私もすべての動植物と国民を愛しているという、なんとも世間知らずでかわいらしい一国の姫らしき確信とともに、一日はスタートした。

いつもは憂鬱な午前中もなんだか心が躍る。国民たちは皆このように電話を取り、挨拶をしているのか。この服もいつもと違って軽くて良い。

いつもはふんだんにレースをあしらった、重たいドレスばかり着させられているのだ。

 

うきうきと浮ついた気持ちで席に座っていたら、呼びかけられた。

 

「姫、面会の者が参りました」

 

「あら、ありがとう。誰かしら?」

 

微笑んでから、すっと立ち上がり、背筋を伸ばしてお迎えにあがることにする。

自席で面会の者を待つなんてはしたないことはしない。何故なら私は賢いお姫様だからだ。

(これは余談だが、養老孟司氏が著書の中で「小物ほど部下を呼びつけるものだ」というようなことを述べていた。その通りだと思っている)

 

面会をしに来たらしい男は、へらへらと笑いながら立っていた。

 

「これ、納品書なのでぇ」

 

あら、随分はしたないお顔をしてらっしゃるわ。それに、言葉遣いも独特。一体どちらのイントネーションなのかしら?

可哀そうに、きっと十分な教育制度のない国で育ったのでしょう。

他国の平民なんて有象無象に過ぎないと大臣さんが仰っていましたけれど……私が気にすることではないのかしら。住んでいる国も全く違うのですし。

いえ、他国の民のことも愛してあげられるはずですわ。何故なら、私は良い王女様にならなくてはならないのですから。

 

 

……といった形で、今日という日を乗り切ることができた。

驚くほど腹も立たなければ、悲しくなることもなく、なんならとても気分よく一日を過ごすことができたし、上機嫌であった分、周りの大切な自国の皆さんと幸せをいくつか共有することもできた。なんというWIN‐WINな作戦であろうか。

多少自己陶酔しすぎて後で一般人に戻るのに苦労することだけ難点だけれど、多分あと数か月はこの作戦でいけると思う。

 

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ところで、私の国の法律では努力する女の子は皆きちんと地位が与えられて、称賛されることになっている。ビザをとりたい方はいつでも仰ってね。

それから、そちらのお姫様方は、今度お茶でもいかがかしら?