私たちの冷戦終結宣言は、コーヒーヌガーの味がする
今週のお題「好きなおやつ」
チロルチョコのコーヒーヌガー味、こんなに美味しかったっけ?
子どもの頃はチョコレートの中に入っているあのヌガーがどうしても気に食わなくて、あんなに苦くてねっとりしたものを作り出した奴は絶対に性格が悪いと思っていた。
だから実家の冷蔵庫のバラエティパックの袋の中では、寂しそうにいつもコーヒーヌガー味だけ残っていた。いや、待て違う。アイツは全く寂しそうなんかじゃなかった。
「私の美味しさがわからないなんて、どうかしているんじゃないの?」
とでも言うかのように、冷蔵庫から冷ややかな視線を向けてきていた。
私はと言えば「ちっぽけなチョコレートのくせに何を偉そうに、あんたなんて今に生産中止されちゃうのよ!」と若い女の子らしく反論して、乱暴に冷蔵庫を閉めて、それで長いこと冷戦状態にあったのだ。
だってあんなに「私の美味しさがわからないやつは子供」だと言い放って、自信たっぷりな彼女のことが羨ましすぎて、絶対に仲良くなんかなれなかった。
それが今、そんないけ好かなかった彼女と、たまたま再会して、「せっかくだからお茶でも」となんとなくその場の雰囲気に流されるまま話してみたら、少し癖はあるけれど優しい女の子になっていたのだから驚きだ。全く違う生き方をしてきた私たちなのに、話は大いに盛り上がった。
私たちはすぐさま冷戦終結宣言を行うことにした。ワンルームの真ん中のテーブルで向かい合って、この会談の後に記者に発表する内容について少しだけ話し合った。そして、それが終わると微笑みあった。秋の初めの柔らかい風でカーテンが揺れて、虫の声が近づいたり遠のいたりしている。
「我々は永続的な平和と、私たちの関係が持続的な共同関係になることを実現することが出来る。これは日本の片隅の小さなワンルームで、コーヒーヌガー令嬢と私がまさに始めようとする未来の姿だ」
さて、彼女の口調は穏やかで大人びたものになっていたのにもかかわらず、容姿だけはなぜかあの冷蔵庫で仁王立ちしてこちらを見下ろしていたあの時より少しばかり幼く見えた。
私が今までのことを謝ると、彼女は「いいのよ、私も意地を張っていてごめん」と手を差し出してくれた。でも、その手を取った瞬間に、突然寂しくなったのはどうしてなのだろう。
本当は彼女に敗戦したから?いいえ、あなた、そんな理由ではございませんことよ。
乙女の寂しさはもっと曖昧で、繊細で、際限なく甘い。そして少しだけ苦い、コーヒーヌガーの味がする。
ところで私は今でも、乱暴に冷蔵庫を閉めてしまうような少女であった頃の私を愛している。恐らく、彼女も。