未婚の中年男性というシンデレラ
むかしむかし、あるところに、お酒を飲んでは女の子にねっとりとした視線で「彼氏いるんでしょ?」と祈りながら尋ねる未婚の中年男性がおりました。
さて、セクシュアルハラスメントの話をしたいわけではない。
まして、未婚のおじさま叩きをしたいわけでも断じてない。というか、これだけたくさんの人が生きている世の中で未婚であることに大して注目することもないだろう。
職場に一見とても気の良い中年男性がいる。
いつも大きな声で笑っていて、豪快そう、そしてお酒を飲むことが好き。
皆さんの職場にも恐らく一人はいるタイプの中年男性だ。
そして、お酒を飲むと決まって、
「彼氏はいるんでしょ?」「俺のことなんだと思っているの?」
と繰り返すのである。汗ばんで油の浮いた肌を私の肩に恐る恐る貼りつけて。
そして、「いい年して結婚もしてなくて、俺って男として終わってっからさ」と私の顔色を伺うのだ。
「そんなことないですよ」
を待望した、中途半端に秋にならない、夏でもない、じっとりとして眠れない夜に肌にはり付く空気のような視線を差し向ける彼に、なるべく若い女の子の代表ですという顔をして「そんなことないですよ」と言う。思ってなくたって、言う。
自分が終わりだと思ったらきっと終わり始めてしまうだなんて言わない。自分だけは意味もなく自分を信じたらいいだなんて言わない。それくらいのことを言わない狡猾さは四半世紀生きた女の子なら誰だって持っているものだ。
承認と、慰めと、それ以外の言葉にするのが憚られるようなどろどろとした半液体状のなにかを過剰なほどに求める彼は、思えばいつも何かに追われているようだ。追われすぎて疲れて、そしてすべてに怯え切った子供のような目をしている時がある。
そして、幸せは誰かがきっと、運んでくれると信じている。信じ切っている。
でも、女の子に幸せなんて求めたってなんにもない。と思う。
男の子に幸せなんて求めたってなんにもない。とも思っている。
そして、今は幸せでなくても、結婚すれば幸せになれるなんていうのは幻想だ。
恋人だってそうだと思う。恋人ができたら勝手に幸せがやってくるなんて妄想だ。
すでに幸せで自立して生きていける人だけが、きっと本当に結婚や恋愛で幸せになれる切符を手にすることができる。のかもしれない。結婚はしたことないからわからないけどさ。
この文章は25歳の私へ自戒をこめて。
自らの足で立ち、幸せであれ!